沼津市民の皆様へ
「求められる市民の的確な判断」(上)長谷川徳之輔
この秋の沼津市長選挙も目の前になっております。沼津市民の一番の関心事は、長い間、行政と市民の間に不協和音、対立を招いていた沼津駅周辺総合整備事業、鉄道高架事業をどうするのかの、極度に政治的な政策判断がどう下されるか、政治や行政が、転換するのか、しないのか、どう判断するのかにあると思います。
推進するにしても、見直すにしても、撤収するにしても、十月の市長選挙は、その判断を市民に仰ぐ重要な選挙であり、この重要な争点、問題点を避けての沼津市長選挙はあり得ないと思います。
鉄道高架事業をめぐる客観的な環境、条件は、このところ大きく変化しております。三・一一大災害以後の経済、財政の大変動、国民・市民意識の変化に加えて、沼津市は東海地震が現実化することから、地震対策、大津波対策に力を傾注しなければならず、先行きに予想される厳しい財政事情からも、人口の増加、経済の成長を前提にしていた大型公共事業の見直しは避けて通れない事態にあります。
沼津駅周辺総合整備事業、鉄道高架事業は、その規模は二千億円、二十年もの工事期間を要する超大型の公共事業であり、その投資効果や沼津市が置かれた財政状況、政治環境からしても、ほんとにやる必要があるのか、やれるのか、現実性があるのかどうか、強く問われている事業です。
鉄道高架事業の事業計画の作成には、国土交通省、静岡県、沼津市、それにJR東海、JR貨物が絡み、さらに、その費用は、国、県の負担、補助、さらにJRもごく一部を負担しており、沼津市は三百億円近い税金を貯めたといっていますが、さらなる負担は免れず、その仕組みや費用負担から見ても、事業を推進するにせよ、見直すにせよ、撤収するにせよ、関係者での意見の調整が難しいことは論をまちません。
また、その権限や責任の所在も不透明であって、どうしても、責任のなすりあいが起きます。沼津市は静岡県の責任だといい、静岡県は国土交通省の責任だといい、JR当局は知らん顔で、そして、国や県は、最終的には、沼津市長、沼津市議会、沼津市民の責任であり、決断であるとして、責任を負うことを避け、押し付け合うことに終始している印象は免れません。本質の論議は行われずに、派生的な論議で責任を転嫁することばかりが続きます。
私は、元建設省道路局に在籍していた経験からも、国土交通省にとっても、静岡県にとっても、国全体、県全体の利益を考えると、人口二十万人に過ぎない地方都市への二千億円、一一十年もの大型公共事業の投資は、高度経済成長やバブルの時期はそうだったとしても、時代は変わり、これほど財政事情が悪化する時期に、投資効果が乏しく、一地方にしか利益のない事業を積極的に進める政策意思があるはずがないと思わざるを得ません。
今まで、国も、県も、現実性に欠ける事業の認識から、着工を先送りし、黙って時を過ごしているだけなのだと思います。
そもそも、行政組織、官僚は、難しい事案には、自ら判断することができず、政治、選挙がどう判断するかに従って、その結論に追随するしかありません。今度の市長選挙は、その重要な政治の意思決定の時なのだと思います。ということは、鉄道高架事業を推進するのか、見直すのか、撤収するのかの最終の意思決定は、国土交通省や静岡県ではなく、沼津市長、沼津市議会、沼津市民が決めなければならなくなっているということだと思います。(つづく)
(沼津出身=明海大学名誉教授、東京都目黒区)
(沼朝平成24年8月15日号投稿記事) 沼津市民の皆様へ
「求められる市民の的確な判断」(下)長谷川徳之輔
静岡県は、用地買収の難航から、施行の責任は沼津市だと思っていた新貨物駅の移転事業に突然に施工主体になったことで、判断に戸惑い、推進するのか、見直すのか判断しかねて、有識者会議やPI(パブリック・インボルブメント)委員会の第三者の公正で客観的な意見を求めるとして、結論を先伸ばしてきたのだと思います。
そして、最近になって、PI委員会の結論を沼津市当局、沼津市議会、沼津市民に説明したようですが、静岡県としては、新貨物駅の移転の是非ではなく、鉄道高架事業を当初の計画通りに進めるのかどうか、別の解決策を考えることもあり得ると説明したといわれていますが、このことは、その決定の責任を沼津市長、沼津市議会、ひいては沼津市民の判断に委ねるとして、自らの責任、判断を回避する後ろ向きの姿勢を示しているのだと思います。
この静岡県の説明には、事前に川勝平太知事の判断や国土交通省の方針に沿った対応が協議されて、その指示、了解のもとに方向が示されたものだと思いますし、今のままでは、沼津市長だけが蚊帳の外に置かれていて、沼津市長と沼津市議会だけが、責任を取らされる損な役割を演じさせられることになるのだと思います。
今、肝心なことは、沼津市長、沼津市議会が黙って見ていて消極的に対応するのではなく、先手を打って、自らの判断を優先させ、解決に臨む対応策を積極的に提示して、沼津市の明確な姿勢を市民に示すことだと思われてなりません。
だめだと認識しながら、風に流されて、県や国の責任だと言って、その判断を待つのでは無責任です。
いずれにしろ、今のままでは、鉄道高架事業がこれから積極的に推進さ、れる可能性は極めて低く、誰が考えても、見直しとして自由通路なりの新しい計画を示さざるを得ないでしょう。事態は、市民派が進めてきた方向に向かいつつあるようです。
今度の市長選挙こそ、最終の結論を出す時でしょう。推進するにしろ、見直すにしろ、撤収するにしろ、一方の立場に偏した非論理的、感情論ではなく、鉄道高架事業の市民にとっての利害得失をしっかり見据え、政策論争をしなければならないと思います。市民に自らの問題として、考察する機会を与えることが肝心です。
確かに、風は市民派に吹いています。沼津駅鉄道高架事業について、今度の選挙で、しっかりとした方回が出せるように、沼津市民も、沼津市議会も、沼津市長も、その候補者も、これまでのいきさつに拘泥されることなく、損得利害を離れて、大所高所に立って、共に沼津市民の真の利益になる方向を見出すべきではないでしょうか。沼津駅付近鉄道高架事業の本質的な問題点を論議して、どう見直しをするのかを市民全体で考えて、市民の合意を見出してもらいたいと思います。
私は沼津市民でもないのに、この十数年、誰に頼まれたわけではありませんが、沼津駅付近鉄道高架事業について、自分の経験、知見から、思うところを論文に書いたり、新聞に投稿したり、自分の費用で本を出版したり、見知らぬ一主婦を市会議員にするため応援したりして、個人として、一識者として鉄道高架事業が沼津市民の利益になるように、この問題にかかわってきました。
余計なお世話だと市民からの反発もあり、逆に支援の声もたくさん聞こえました。市議会や市の職員からは、厄病神だと思われていて、何を言っても無視されてきましたが、市議会議員も市の職員も、本心では私の観方、考え方に賛成しているだろうと思っています。それが、今の沼津市民全体の世論だと感じてなりません。
私も、いささか疲れました。誰から見ても、鉄道高架事業問題も完全に終焉を迎えていると思いますし、誰が市長になろうと、選挙の結果にかかわらず、新しい方向が見い出されるでしょう。私の無私の奉仕も、このあたりで終わりにしたいと、心から願っています。(おわり)
(沼津出身=明海大学名誉教授、東京都目黒区)
(沼朝平成24年8月16日号投稿記事)
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