②年収412万円で1,740万円のマンションを買えるという比喩は妥当なのか
1) サラリーマンの家計に置き換えてみる
市の説明では,沼津市の財政は健全で,福祉や教育の事業を圧迫することはなく,心配しなくても,このくらいの支出は十分にできる,財政に心配はないというのです。この事業をサラリーマンの家計に置き換えると,市の会計は645億円,自主財源は412億円だから,年収412万円の家庭が1,740万円のマンションを無理なく買えるか,ということだとして,1,740万円のうち1,115万円を親(国,県)が面倒を見てくれる,自分の負担は3分の1の625万円だから十分払えるし,ローンをしなくても271万円の貯金があるから大丈夫,ということですが,そんな説明でよいのでしょうか。
2)説明にもならない親の遺産,親の補助
そもそも,この家庭の支出は,すべて,ほかの仕事に使われており,福祉や教育などを考えると新たな事業に回す余裕はないはずですし,収入が減ることがあっても増えることは期待できず,親の財産の相続も当てにはなりません。なによりも今でも,年収の3.2倍,1,300万円の借金があります。1,780万円のマンションを買うには,これに加えて,新しく借金,ローンを組まなければなりません。271万円の貯金があるといっても,現金で残っているわけではないし,もともと借金をして積み立てた基金で,所得を積んだものではないでしょう。これまでのローンすら払うのも大変なのです。そんな家計で,新たな借金に耐えられるのだろうかということも考えなくてはならないでしょう。ただ,言葉で大丈夫だというだけでなく,現在及び将来の歳入や歳出の財政構造を数値によって明確に説明して,納得させなければなりません。
③深刻な沼津市の財政事情
1)最近の沼津市の財政を数字で見る
最近の沼津の財政を数字で見てみましょう。1998年(平成10年)と2003年(平成15年)の5年間に,厳しい経済事業もあって,財政規模は,676億円から625億円と0.92倍,8%の減少を示しています。自主財源の市民税は120億円から98億円と0.82倍,18%の減少,固定資産税も,157億円から154億円の0.98倍と,減少しています。自主財源の市民税,固定資産税は,368億円から335億円と0.91倍,9%の減少になっています。このほかに,消費税地方交付金などがありますが,自主財源が412億円とはどこから出ているのでしょうか。
2)もはや余裕のない市の財政
財政縮小を受けて,歳出も減少し,公共事業は大きく減っており,土木費は,168億円から127億円,0.76倍,4分の1も減少しております。人口減少,経済低迷の中で,自主財源が大きく増えることが期待できないことは誰でもが感じていることです。国の財政再建では,歳出を大きくカットしても,それでも消費税の引き上げは必至だということです。交付税交付団体すれすれの沼津市に,財政の余裕があるとはとても考えられません。
④鉄道高架化事業の財政への影響
1)もう少し細かく,分かりやすく見る
少し細かく,分かりやすく,沼津市の財政が,鉄道高架化事業でどう影響されるのかを見てみましょう。まず,2003年,平成15年度の予算からはじめてみると,一般会計予算は,666億円,歳入のうち市税収入が325億円で,財政規模の48.8%であり,特に市税収入(市民税と固定資産税)は,平成9年(1997年)には,377億円あったものが,平成15年(2003年)には325億円と,6年間で14%もの減少を示しています。これに,市債(市の借金)107億円とその他の国や県の交付金,補助金を含めて666億円になります。地方交付税は元の沼津市の財政では,受けてはいませんが,財政状況は決してよいとはいえません。
2)市民一人当たりで見る
市民一人当たりで見ると,一世帯当たりの市民税は16.5万円,固定資産税19.2万円,その他を合わせて41.6万円の負担をしています。市民税納入者の収入は平均355万円だそうですから,市民の税負担率は11.7%%ということになります。
歳出では,民生費(福祉予算)143億円(21.5%),教育費75億円(11.3%),衛生費77億円(11.5%),土木費142億円(21.3%),その他229億円(34.4%)という構造になっています。他の市町村に比べて,多いのか少ないのかは,別の議論をしましょう。
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