⑥小田急線の高架化事業と比較する
鉄道高架化事業は,全国で行われておりますが,中心は東京,大阪など大都市の通勤用の鉄道線路です。最近では東武鉄道の「開かずの踏切」で人身事故が発生して,その対策が急務だと指摘されております。小田急線,東武線,西武線,京王線などでは,どの路線でも1分間に1列車の電車が行き来し,踏切りは60分のうち50分が閉まっている状況です。沼津駅鉄道高架化事業では,13箇所の踏切りは解消されますが,通過する車両は往復で10分に1本ぐらいでしょう。60分のうち50分は空いています。
1)小田急線立体交差事業とは100倍の効果の差
10キロの高架化が必要な小田急線の沿線には200万人が住んでいます。沼津は21万人です。費用は両方とも2,000億円です。その効果には,横断する自動車交通も,鉄道の運行数も,著しく格差があり,鉄道輸送量,自動車交通量だけでも10倍の差があります。一人当たり負担は,単純に人口比では,小田急線10万円に対して,沼津駅高架化の100万円とは10倍の差があります。効果と費用では,単純に比べると,その効果は,100倍もの差になります。どちらを優先すべきは明らかです。
2)「特急あさぎり」を増やせる小田急線連続立体交差事業
小田急線に「特急あさぎり」が導入されてからもう10年以上経っているでしょうが,相変わらず1日に4本しか運行されず,使い勝手が悪く,導入の効果は上がっているようには見えません。理由の一つに,小田急線の容量が限界で新規の「特急あさぎり」の導入ができないことにあると思います。小田急線の複々線化が進んで容量が増えれば,もっと「特急あさぎり」を増やすことができるでしょう。沼津市にとって,沼津駅周辺の鉄道高架化事業を
進めるよりも,小田急線の複々線化を進めてもらったほうが,はるかにメリットが大きいような感じがします。
3)国の財政の現状を考えると今後の投資は期待できない
国の財政は,ますますきつくなり,公共事業費を全国に散撒く政策は採れず,優先度の高い投資にシフトしていくことは必至です。鉄道高架化事業自体が,財政難から立体化工事を進めるだけでなく「賢い踏切り」など,踏切りの改良,合理化,効率化で対応しようとしています。いずれ,「カネ喰い虫」の沼津駅の鉄道高架化は,投資効果が小さいと国から見離される恐れもあるでしょう。
⑦「高架化」の先進事例と最近の採択事業
1) まず仙台駅の市街地の中心の仙台駅鉄道高架化事業の先例まず実績を見ましょう。JR仙石線連続立体事業は,仙台市の市街地を走るJR仙石線の立体交差化事業で,昭和56年度(1981年)から平成12年度(2000年度)まで約20年間かけて,施行延長4,000メートル,(地下式3.5キロ,地表式0.5キロ)の高架化事業が進められ,踏切り除却数14箇所,交差道路は,都市計画路線8路線,その他の道路,10路線で道路整備が進められている事業です。総事業費654億円で完結しており,高架化区間1キロの費用を沼津と比較すると,沼津駅周辺高架化事業はキロ当たり195億円,仙石線高架化事業キロ当たり164億円です。沼津駅高架化事業と比較すると,1.2倍の高コストになっています。沼津市民は約20万人,仙台市は,約100万人ですから,人口当たりの効果では,沼津の高架化は,仙台の高架化の6倍の高さなのです。沼津駅のコストが高くなるのは,新貨物駅,新車両基地の費用が大きいからだと思われます。
2) 効果の大きい採択事業
平成18年度の新たに採択された高架化事業は、事業の効率性、必要性,有効性を見て総合的に評価して採択されたとして、全国で次の2箇所が新規採択されています。
(i)一その1一兵庫県加古川市の事業が,事業費52億円で,沼津の20分の1,交通量2.5万台/日で費用対効果は、B/C(「総便益/総費用」)3.4で沼津の2.7を上回る事業で、効率的なことから選択されたのでしょう。事業費も,52億円と沼津の20分の1に過ぎません。
(ii)一その2一名古屋市の事業では,名鉄名古屋線の4キロメートルが採択されて,踏み切り遮断交通量は,6万台/日と大きなもので,事業費は600億円で沼津の約半分,費用対効果B/Cは,2.1と沼津より低いが,沼津駅鉄道高架化事業の半分の事業費であることが有利な条件だと思われます。沼津駅鉄道高架化事業についても,やはり厳しい選択基準が問われることでしょう。
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