Q7
地方都市問題が集積した街,沼津市の鉄道高架化事業を巡る大騒ぎの実状?
A7
①地方都市の抱える問題点
地方都市の衰退,中心市街地の空洞化,硬直した利権構造,談合行為の横行,公共事業頼みの風潮,住民意識の変化など,地方都市を巡る問題は,どこの地方都市にも共通した問題ですが,公共事業を巡って人口20万人の地方都市の沼津市においては,地方都市の抱える問題点が集約的に生じており,沼津駅周辺鉄道高架化事業という巨大な公共事業を巡って今日的な諸問題が顕著に現れております。沼津市における沼津駅周辺鉄道高架化事業は,一体どんな考えで計画されたものでしょうか。どんな問題が生じているのか,その実情を見ながら,地方都市の抱える諸問題を考えていきましょう。
②鉄道による市街地分断が空洞化の原因か
市街地の中心部を東西に横断するJRの鉄道線路で市街地を南北に分断されていることが,中心市街地の空洞化,衰退の原因なのだから,この鉄道線路を高架に改造すれば,鉄道と道路が立体交差になり,地域の南北分断が解消されて,中心市街地の活性化が図られると言う考えで,人口20万人の中都市に事業費2,000億円,20年の時間をかけて,東海道線,御殿場線の10キロの鉄道線路を高架化しようとする計画が進んでいるわけです。しかし,この事業の目的,仕組み,評価を巡って行政と市民の問に深刻な分裂騒ぎが生じています。最近の経済情勢を見れば,地方都市が分不相応な公共事業をやるのは,財政的にも困難であるし,市は,もっと他にやることはあるのだと,鉄道高架化事業に反対する市民が現れています。しかし,沼津市,市議会は,ただ,既に決めたことだから,いまさら止められない,国の資金が入ってきて地元に利益になると言う利権本位の姿勢からか,対話を求める市民の意向を配慮することなく,事業を強行しようとしており,市民と行政との間に深刻な不協和音が生じて,20万都市の地方政治が混乱しています。
③一人当たり100万円(総事業費2,000億円)の「箱もの」
一体,中心市街地の衰退,空洞化は,鉄道線路の分断がもたらしたものなのか,本当に鉄道を高架化すれば空洞化は解消されるのかと,計画そのものへの疑問が出されています。何より人口20万人足らずの地方都市で,今の時期に,20年以上の時間をかけて,総事業費2,000億円,市民一人当たり100万円を投じて,既に地下道で立体交差になっている鉄道を高架化することにどのくらいの効果,意義があるのか,なんの役に立つのか,無駄な投資ではないのかと,「箱もの」行政への疑問が噴出し,計画の変更や中止を求める市民運動が起こっています。
④先例の臨海副都心の借金,静岡空港の後始末
沼津市が市民一人当たり100万円,2,000億円の投資を行うことは,人口1,200万人の東京都でいえば,12兆円の特別の「箱もの」づくりをすることと同じであり,その投資規模は東京都の年間の土木費1兆円の12倍もの事業を行うことになります。東京都は,鳴り物入りで進めた臨海副都心の開発で膨大な負債を負ってしまっており,8兆円と風呂敷を広げた臨海副都心開発が,今になって東京都の財政を苦しめています。もう一つ,静岡県でいえば,年間予算規模1兆3,300億円の静岡県が4兆円の特別「箱もの」事業を増やそうと言うに等しく,その規模は静岡県の年間の土木費2,835億円の14倍の事業に相当します。静岡県も静岡空港の後始末が大変でしょう。今の時期,ほんとに彼らは,大規模な「箱もの」事業をやるだろうか,いや,やれるのだろうか。
⑤行政と市民の不毛の対立が続く一沼津市政の混乱が続く一
事業の是非への住民投票を求める市民の動きは,5.5万票と市民の半数近い賛成を得ましたが,市議会にそれは受け入れられませんでした。市長,市議会は,既に市議会や関係者と十分協議していて,市民への説明責任は果たしており,今になって市民が関与する必要はないとして,住民投票条例の制定を拒否しています。
さらに,市議会,市長不信から市長のリコール運動まで惹起され,リコールは成立しなかったものの,沼津市政に混乱が続いています。
⑥沼津市の鉄道高架化事業を巡る問題点を検証しよう
そこで,沼津市の鉄道高架化事業を巡るさまざまな問題点を冷静,客観的に点検して,地方都市の衰退問題,市民参加や情報公開のあり方,公共事業の効果などの全国の地方都市が抱える今日的な諸問題を検証してみましょう。
Q6巨額な負債を招いた公共事業はどうなったか?
A6
①身分不相応なインフラー30年前の田中角栄内閣の残した巨額の負債一
田中内閣の日本列島改造論が語られたのはもう30年も前のことですが,それから僅か30年で日本列島の四つの島は,新幹線,高速道路で結ばれ,人口400万人の四国と本州には,3本の巨大な架橋が,人口500万人の北海道と本州とを結ぶ青函トンネルが完成しています。それも,人口6千万人のイギリスと2億人の欧州大陸を結ぶドーバー海峡トンネルが出現する前のことです。アフリカと欧州を結ぶジブラルタル海峡には,いまだに,トンネルも橋もありません。しかし,壮大な国土開発は,巨大なインフラを整備した成果とともに,巨額の負債も作ってしまいました。採算性に欠ける3本の本州四国架橋には多額の税金が投入されるなど,身分不相応のインフラの負債が今の日本経済,財政を苦しめています。
②行き詰った「全総計画」
過疎過密を解消するというスローガンで,新幹線,高速道路,港湾などの社会資本を整備する,過疎過密の解消を図る,そのための公共投資の総合計画として,戦後まだ傷の癒えぬ時期,1956年に,国土総合開発法が制定されて,各内閣は競って国土総合開発計画を策定しました。1962年に池田内閣の地域間の均衡ある発展を図る拠点開発構想,東海道ベルト地帯開発に始まって,バブル経済崩壊後の橋本内閣の参加と連帯の多軸型国土形成の基礎作り構想まで5次にわたり,意味不明瞭,美辞麗句の官庁作文の国土総合開発計画が作られ,中央主導,官僚主導の制度,計画として公共事業の拡大の旗振り役に使われてきたのです。
③夢から覚めた「箱もの」行政の転落
しかし,財政危機,経済構造の転換の中で,新幹線,高速道路の整備も進み,公共事業に対する国民意識にも大きな変化が現れており,もはや国土総合開発が国民に夢を与え,経済を再生する手段にはなりがたく,国土総合開発計画への国民の関心も薄れてしまっているようです。国土総合開発計画は,あまり意味が分からない国土形成計画と名を変えていますが,今の時期,役に立たない無駄な仕事,ただ利権を確保するだけの公共事業,「箱もの」行政を進める目的,意義は薄れてしまっています。地方都市でも, 都市再生に,やみくもに「箱もの」づくり、公共事業をありがたる風潮は消えていくでしょう。
Q5「箱ものづくり」より「人づくり」一市民意識の転換とは?一
A5
①薄れた「箱もの」への期待一年金,福祉,教育等の"人づくり"へ一
市民,住民の関心も変わっています。公共事業,「箱もの」に対する住民の期待感,何でも公共事業なら大歓迎するという評価は薄れて,逆に「箱もの」づくりが,地域の環境破壊の元凶だとか,無駄な事業だという見方が広がっています。市民,国民の関心は,「箱もの」作りより,年金,福祉,教育など人づくり,安心作りに向かっていると言えるでしょう。大規模な公共事業,「箱もの」作りで市民の共感,支持を受けることが出来なくなっていると思います。しかし,行政や議会には,公共工事でストックが形成されることより,地元に国の金が流れることが公共事業の目的だと言う意識がまだ根強いだろうと思います。
②「箱もの」一自民党総裁選挙から消えた高速道路。新幹線,空港等の以前の花形公約
自民党の総裁選挙でも,面白かったのは,時代の転換を示している3人の候補の選挙公約でした。「美しい国」,「消費税引き上げ」,「地方の再生」などのスローガンはありましたが,その中に高速道路,新幹線,空港など10年前までは総理総裁の花形公約であった国土総合開発を推進しますと言う公約がまったく見えなかったことです。確かに,低成長,成熟経済の下,経済社会構造の転換が顕著になる中で,国民の関心は,「箱もの」づくりの公共事業より,年金,介護,健康,教育と言う福祉や人づくりに向いているのです。国土総合開発法という戦後を作ってきた制度,計画も終焉して,公共事業を推進し,国土開発の骨格を形成する制度,政策にも大転換が進んでいますが,いま一つ国民の関心は乏しいようです。確かに今,「箱もの」づくり,公共事業優先の地方政治も転換期にあります。