⑤無理をした沼津市の財政収支の計算
1)本当に沼津市の財政は心配ないのか
沼津市も,平成18年(2006年)から平成27年(2015年)の間の,10年間の沼津駅周辺総合整備事業の財政見通しを試算しています。
その前提条件がよく分かりませんが,経済成長率は,政府の「改革と展望」の数値から名目成長率が3%台に回復するとして,市民税などの収入等を試算しており,財政収入は,平成18年度の696億円から平成27年度は789億円と1.13倍,年率1.2%で伸び,市税収入は,350億円から431億円と1.23倍,年率2.1%で増収する。
したがって,10年間の累積の財政収入の規模は7,522億円になるとしています。他方,歳出は,676億円から769億円と1.14倍,累積歳出は7,322億円であり,歳出に沼津駅周辺総合整備事業が参入され,平成18年度の24.9億円から平成27年度に42.5億に投資が伸びて,10年間の累積投資額で,536億円が投資できると計算されています。10年間の累積の財政収入7,522億円は,累積の歳出額7,322億円を上回るから,財政に心配はないということであるようです。
2)窮極的には福祉,教育にしわ寄せになる
これは,詳細に見れば,かなり無理をした財政収支になっていると言わざるを得ません。まず,総合整備事業の事業期間が20年とすれば,20年分の財政収支が計算されていなければなりません。
この数年間の市税収入の激減を見れば,市税収入が,これから10年に年率2.1%で延びていくという計算が成り立つかどうか問題ですし,歳出では10年間,人件費も物件費も,まったく増額されていません。公共事業は平成18年の153億円が平成27年に177億円と1.16倍に増額され,累積投資額は,1,700億円になる,とされていますが,うち鉄道高架化事業が,10年の累積額は,536億円とありますので,下水道,公園,道路などの累積の普通建設投資額が,1,164億円,年間116億円となり,平成10年,1998年の168億円の0.69倍に減じてしまうことになります。やはり,市のサービス水準を大きく引き下げて,鉄道高架化事業を進めていくという結果になるのではないでしょうか。それは窮極的には福祉や教育にしわ寄せが行くことは避けられないということでしょう。
3)肝心の借金の処理はどうなるのか
一・番の大事な問題は,市の借金,市債の処理です。現在の市の債務1,300億円の金利負担,元本返済などの公債費は,平成18年度74.4億円で,これは平成27年度の78.1億円とほとんど変りなく増えていません。金利や償還条件がよく分かりませんが,今後の10年間に公債による収入の累積額が683億円だとされていますから,平成27年度には,市の債務は2,000億円に迫っているはずで,公債費の支出はきわめて大きくなっていると思わなければなりません。なぜ,公債費がほとんど増えないのか不思議で仕方がありません。
⑥財政は深刻であり,税金を上げざるを得なくなる
1)歳入が減り,一方で歳出は増える
これが2025年にはどうなるかというです。確かに,国も地方も緊縮財政のとき,人件費は抑制され,福祉の増額もままならない,深刻な財政難が続くでしょう。公共事業費は,年々減少,新規事業は抑制され,施工中の事業にも予算が削減され,他方これまで蓄積してきた施設の維持修繕の支出は高まるでしょう。
そこで,先行き,2025年の予算を考えて見ましょう。民生費(福祉,医療,介護)は,国の抑制方針に従って年率2.6%の増加に抑えて,1.72倍の246億円であり,教育費は少子高齢化対策からも1%程度の増額と考え,1.22倍の92億円となる。そして衛生費(ごみ処理,下水道)も1%の伸びで1.22倍の94億円,土木費は,今以上に増やさないでゼロ%の横ばいの142億円,さらに市役所職員の人件費や産業振興費などは,必要があっても緊縮を維持して20年間伸びをゼロにすることで229億円,とすると2025年の予算規模は,歳出を803億円,1%の伸びで1.2倍の規模に留めるとします。これは職員の給与は20年間は全く上がらないという厳しい前提なのです。
2)難しい借金の処理
では,これをまかなう収入はどうなるのでしょうか。やはり市民への増税路線は避けられません6市民税は,経済成長率1%に連動して,1%の伸びを見込んで1.22倍の167億円,固定資産税も年率1%で徴増して1.22倍の223億円,国や県の補助金,市債は増やさず,伸び率ゼロで346億円とすると,歳入見込みは736億円という計算になります。歳出には1,300億円といわれる市債の利払いや返済金もあり,更なる増額は避けられません。ここでは,これは無視しましょう。
鉄道高架化事業がなくても,長期的には,歳出の増額と歳入の伸び悩みで,沼津市の予算は,増税なしでは,67億円の赤字になるのです。鉄道高架化事業がなくても,将来の経済,財政状況から見ると,市民の負担は避けられず,市民税納入者の負担は41.6万円から52万円と1.25倍に増えるでしょう。
⑦鉄道高架化事業のためには1.3倍の市民税値上げは避けられない
さらに,これに沼津駅周辺鉄道高架化事業の1,740億円の費用,沼津市の負担額625億円が加わるとどうなるのでしょうか。沼津市の負担は年間では,31.3億円が増加し,2025年の歳出額は,803億円プラス31.3億円で834.3億円の歳出が必要になります。とすると,843.3億円の支出と736億円の歳入を比べれば,98.3億円の単年度赤字が生まれる計算になるのです。この赤字額を市民税と固定資産税の増税でまかなうと,市民税と固定資産税は,現在の320億円から1.31倍の418億円に増額されてしまいます。
これでは市民税納入者の市民税等の負担は,今の年間41.6万円から56.4万円と1.36倍に増額する計算になります。これはかなり大胆な予測を伴った仮の試算ですが,鉄道高架化事業に市民の何の負担の増加がなくてもできるという話は,理論的ではなく,科学性に欠けるものと考えざるを得ません。
②年収412万円で1,740万円のマンションを買えるという比喩は妥当なのか
1) サラリーマンの家計に置き換えてみる
市の説明では,沼津市の財政は健全で,福祉や教育の事業を圧迫することはなく,心配しなくても,このくらいの支出は十分にできる,財政に心配はないというのです。この事業をサラリーマンの家計に置き換えると,市の会計は645億円,自主財源は412億円だから,年収412万円の家庭が1,740万円のマンションを無理なく買えるか,ということだとして,1,740万円のうち1,115万円を親(国,県)が面倒を見てくれる,自分の負担は3分の1の625万円だから十分払えるし,ローンをしなくても271万円の貯金があるから大丈夫,ということですが,そんな説明でよいのでしょうか。
2)説明にもならない親の遺産,親の補助
そもそも,この家庭の支出は,すべて,ほかの仕事に使われており,福祉や教育などを考えると新たな事業に回す余裕はないはずですし,収入が減ることがあっても増えることは期待できず,親の財産の相続も当てにはなりません。なによりも今でも,年収の3.2倍,1,300万円の借金があります。1,780万円のマンションを買うには,これに加えて,新しく借金,ローンを組まなければなりません。271万円の貯金があるといっても,現金で残っているわけではないし,もともと借金をして積み立てた基金で,所得を積んだものではないでしょう。これまでのローンすら払うのも大変なのです。そんな家計で,新たな借金に耐えられるのだろうかということも考えなくてはならないでしょう。ただ,言葉で大丈夫だというだけでなく,現在及び将来の歳入や歳出の財政構造を数値によって明確に説明して,納得させなければなりません。
③深刻な沼津市の財政事情
1)最近の沼津市の財政を数字で見る
最近の沼津の財政を数字で見てみましょう。1998年(平成10年)と2003年(平成15年)の5年間に,厳しい経済事業もあって,財政規模は,676億円から625億円と0.92倍,8%の減少を示しています。自主財源の市民税は120億円から98億円と0.82倍,18%の減少,固定資産税も,157億円から154億円の0.98倍と,減少しています。自主財源の市民税,固定資産税は,368億円から335億円と0.91倍,9%の減少になっています。このほかに,消費税地方交付金などがありますが,自主財源が412億円とはどこから出ているのでしょうか。
2)もはや余裕のない市の財政
財政縮小を受けて,歳出も減少し,公共事業は大きく減っており,土木費は,168億円から127億円,0.76倍,4分の1も減少しております。人口減少,経済低迷の中で,自主財源が大きく増えることが期待できないことは誰でもが感じていることです。国の財政再建では,歳出を大きくカットしても,それでも消費税の引き上げは必至だということです。交付税交付団体すれすれの沼津市に,財政の余裕があるとはとても考えられません。
④鉄道高架化事業の財政への影響
1)もう少し細かく,分かりやすく見る
少し細かく,分かりやすく,沼津市の財政が,鉄道高架化事業でどう影響されるのかを見てみましょう。まず,2003年,平成15年度の予算からはじめてみると,一般会計予算は,666億円,歳入のうち市税収入が325億円で,財政規模の48.8%であり,特に市税収入(市民税と固定資産税)は,平成9年(1997年)には,377億円あったものが,平成15年(2003年)には325億円と,6年間で14%もの減少を示しています。これに,市債(市の借金)107億円とその他の国や県の交付金,補助金を含めて666億円になります。地方交付税は元の沼津市の財政では,受けてはいませんが,財政状況は決してよいとはいえません。
2)市民一人当たりで見る
市民一人当たりで見ると,一世帯当たりの市民税は16.5万円,固定資産税19.2万円,その他を合わせて41.6万円の負担をしています。市民税納入者の収入は平均355万円だそうですから,市民の税負担率は11.7%%ということになります。
歳出では,民生費(福祉予算)143億円(21.5%),教育費75億円(11.3%),衛生費77億円(11.5%),土木費142億円(21.3%),その他229億円(34.4%)という構造になっています。他の市町村に比べて,多いのか少ないのかは,別の議論をしましょう。