Q4
鉄道高架化事業に代わる代替案はあるのか?
A4
①東京から沼津までの間に東海道線の鉄道高架化はどこにもない
1)続く鉄道の市街地分断になる
因みに東京駅を東海道線で出発して,その沿線の土地利用を見てみましょう。東京駅を過ぎて,有楽町,新橋までは,線路は高架になっており,そして高架下は,飲食店,事務所,駐車場施設に使われています。新橋を過ぎ,旧国鉄汐留駅辺りは,高架式になっていますが,浜松町,田町を過ぎる間は,全くの平面構造で,広大な鉄道用地が,市街地を分断しています。品川駅は,新幹線駅で大量の鉄道が交差する稠密な駅にもかかわらず,連続立体交差構造は見ることはできず,駅構内に南北をつなげる通行人のための橋梁があるだけです。大井町,大森,蒲田と人家,市街地が密集する地域が続きますが,線路は平面交差が続き,100メートルおきに開かずの踏切が連続しています。政令指定都市の川崎市,横浜市も同じで,東海道線が市街地を南北に分断している状況に変わりがありません。
2)橋上駅かアンダーパスの道路で,連続立体交差の高架鉄道線路はない
さらに,大船,藤沢,茅ヶ崎と言う沼津市より大きな都市の状況も変わらず,連続立体交差はなく,橋上駅やアンダーパスの道路で市街地が結ばれているのです。小田原にも,最近,橋上駅が整備されて,山から海への市街地の連帯が図られています。そこから,静岡市,浜松市に至るどの都市にも,連続立体交差の高架鉄道線路は存在していません。三島市から沼津市の間を見ても,南北に分断されて問題のある区間は,三島駅周辺から木瀬川の間でしょう。何故,中都市沼津駅周辺に鉄道高架化が必要なのか,何故もっと簡易で安く上がる方法が特別に考えられないのか,全く不思議でなりません。
②橋上駅,橋上広場では何故いけないのか
1)より早く,より安い,橋上駅構想がよい
有識者からも,従来の高架化計画に対して,東西に鉄道線路を高架化するのではなく,ガードや高架道路を整備して,南北に交通路を縦断させる沼津駅周辺の開発計画を立てる事業,駅舎,道路を線路上に整備する橋上駅計画や橋上広場計画の提案も行われています。市役所の評価では,いくつかの技術上の問題点を指摘して橋上駅の提案を否定していますが,市役所の見方は難癖付けともいえる瑣末の問題点の指摘であり,その本質である財政問題やコストベネフィットの視点からの比較評価に欠けています。
2)現在あるガードの改良で十分
南北交通の円滑化を主体にするなら,高架化事業と橋上駅事業の効果の差はそれほど大きくはありません。南北に7本の幹線道路を入れるとしても,中心市街地の中に新たに,南北の幹線道路を延長整備することは難しいし,結局現在の「三つ目ガード」,「中央ガード」,「幟道のガード」を充実するしかないだろうと思います。私道や農道で自動車交通がない,13箇所の踏切りの撤去が,どのくらいの効果があるのかよく分かりません。
3)難癖づけの市役所の反論
市役所の主張は,『橋上駅の問題点として,「三つ目ガード」は2車線では混雑緩和にはならない。「中央ガード」は道路の勾配が道路構造令に合わない。歩行者,自転車の回遊性に欠け,負荷がかかり,踏切りが残る」といった指摘できわめて技術的な瑣末的なものです。その問題点がどのように設計したら解消するのかを専門家として考えてしかるべきだと思います。南北交通を地下ガードと橋上道路とのダブルにして双方を一方交通にするなどを考えてもよいのではないでしょうか。そして,駅広場を利用して出入り口をループ状にする道路を考えてもよいと思います。市役所の専門家は,プランナーとしての誇りからも,まず知恵を出すことが肝心です。高架化事業と橋上駅事業とを,費用対効果分析を含めて具体的に比較して,その効果を論じることがまず必要なのです。
Q3新貨物駅,新車両基地の原問題の本質は何か?
A3
①原地区の新貨物駅,新車両基地は市民の負担でJRが丸儲け
1)巨大な新貨物駅,新車両基地ができる
この事業で特に問題なのは,原地区で行われる新貨物基地と新車両基地の問題です。新貨物駅は,鉄道高架化に伴い現在の沼津駅にある貨物機能を原西部(原新田,一本松,桃里)に移転するもので,ここに11.9ヘクタールの面積に,コンテナーホーム2線,列車発着3線,駅舎などを整備するものです。新車両基地は,今の沼津駅の車両基地を片浜地区(西間門,小諏訪,大諏訪)に移転するもので,5ヘクタールの土地に10数本の電車を留置させる線路を設置する事業です。
2)JRの独り儲けになる
この二つの施設の移転は,高架化事業の伴うJRに対する補償措置として行われるものです。この費用の負担について,建設省と運輸省の協定では,貨物設備等移転費として,既設相当分の施設の移転費は都市側,沼津市が負担し,用地造成費は鉄道側のJRが負担し,そして鉄道の増強分は鉄道が負担すると決められています。この協定に従って,原西部の新貨物駅は,その費用が101億円,うち沼津市の負担は79億円,JRの負担は22億円と算定されているようです。用地費造成費は鉄道側の負担ですから,沼津市が買ったこの土地と現在の貨物施設の土地を交換すると言う約束になっています。しかし,交換する土地の面積を沼津市が負担した費用で割ると,買収単価は恐ろしいほど高いものになってしまいます。
3)市民の負担でJRの資産作りか
片浜地区の新車両基地は,すべて既設の施設の移転費用だとして108億円のうち107億円とすべてを沼津市が負担することになります。問題は,この施設がこの規模で必要かどうかということです。また,もし過剰の施設としたら,なぜ,沼津市の市民の負担で作らなければならないかということです。現在でも沼津駅の貨物取扱量は減少して,めったに駅で貨物車両を見ることができないほど閑散としていますが,将来の貨物量が新貨物駅の施設に見合うものかどうか,どのように利用されるのか,よく分りません。
新貨物駅,新車両基地を含めて,現在どのように利用されているのか,将来の利用がどうなるのか,沼津市もJRも市民にしっかり計量的な説明をすること必要です。
②先取りの鉄道輸送,せっかくの施設は役に立つのか
1)役に立たない新貨物駅
鉄道輸送の現状を見ても,沼津市に,これだけの大きな鉄道施設,新貨物駅と新車両基地が必要な理由がよく分かりません。将来の経済社会の動向から見ても,貨物輸送がこれ以上に増えることはありませんし,30年先に鉄道貨物輸送がどんな役割を果たすのか不透明なのです。歴史を見ると,JR国鉄の貨物輸送量は1970年には,2億トンで総輸送量の4.3%を占めていましたが,2000年時点では4,100万トンと5分の1にまで減少してしまっています。最近,駅では重く,かさばる荷物を積んだコンテナー列車の行き来を,たまに見かけるだけです。
2)東京の汐留,飯田橋の鉄道貨物施設は廃止されている
東京の汐留,飯田橋の鉄道貨物施設は廃止されて,土地利用は壮大なシオサイトに劇的に変化しています。貨物輸送の未来がどうなるか分からない中で,沼津のような,今でも貨物列車をあまり見かけない地方都市に,現在の3倍もの規模になる新貨物駅,新車両基地がなんの役に立つのか,不思議でならないのです。
③反対する土地は強制収用ができないはずである
1)法律では不可能な強制収用
もう一つの問題は,この17ヘクタールの土地を,もし地権者が反対しても,公共性があるからといって沼津市が強制収用することが可能なのかどうかです。それはやはり無理でしょう。この施設は,あくまでも鉄道高架化事業の補償として行われるものであり,本来は,施行者の静岡県が静岡県の費用で補償すべきものです。多分,静岡県にはその意思はないでしょう。用地買収も沼津市に押し付けたままです。そのための費用は,協定上,沼津市の負担とされていますが,沼津は施行者ではなく,土地収用法上,強制収用の主体にはなりえません。静岡県としても,補償措置の事業の土地を強制収用することは,補償施設には収用権は及ばないと言う土地収用法の考え方からしても,できないでしょう。
2)この工事は元々は,JRの仕事である
これは,元々は,JRの仕事だし,土地買収なのです。ということは,万一,土地所有者が,この土地を売らないという時はこの事業は,成立しないことになります。
④ふに落ちない市の説明
市の説明ですと,新貨物駅の取扱貨物量は年間40万トンということです。現在の施設の利用量は,年間4万トンでその取扱可能量は1年間70万トンということで,70万トン分を補償しなければならないところを40万トンという今の利用量の10倍の機能を補償するということです。これでは,新貨物駅はほとんど利用されない無用の長物です。
④あまりに過剰な便益計算
1)まだまだ幼稚な費用対効果分析
「費用対効果分析マニュアル」は,事業の優先順序を判断するために,お役所が仮に作成したものですし,まだ確定したものではなく,計算の数値によっては,いかようにも算出が可能なものですから,2.7あるから大丈夫だと,絶対視すべきものではないと思います。本来このような事業には,沼津駅総合整備事業の全体の効果について,交通便益の分析にとどまらず,街づくりの効果や経済全体への影響などのもっと広い分析が必要です。しかし,この見通し,費用対効果は明確ではありません。どうして算出するのか,方法論すら分からないからです。
2)走行便益と時間便益とは?
沼津駅鉄道高架化事業の費用対効果は,鉄道高架化をした場合と,しない場合の道整備の効果を,「走行便益」、すなわち渋滞解消による時間短縮効果と燃費の節減効果によって評価するもので,結果的には,年間94億200万円の効果があり、このうち90億3,400万円,95%の便益が時間短縮効果だとしています。計算の根拠は明確ではなく,この効果が大きいのか小さいのか分らないので,ここでは一定の前提を置いて,この数直がどのような意味があるのか検証してみましょう。
3)マイナスの軽減効果の費用対効果分析
朝夕4時間の間に交通渋滞があって,運転者の時間給が6,000円,10分で1,000円のロスがあり,1台10分の時間ロスが出ているとして,この時間便益を計算して見ましょう。時間価値原単位は,基準では,75.7円/分,ですから10分で756円と言うことになり,1,000円はかなり高く見積もったものです。
高架化事業がなかった場合の時間ロスは,年間171億7,300万円,と言うことですから,250日のウイークデーで見ると,日6,900万円のロス,朝夕4時間のロスでは,1時間1,740万円になり,10分で1,000円のロスで計算すると,時間交通量が1万7,400台になります。高架化が完成すると,交通の円滑化から,時間ロスは81億3,900万円に減少し,日ロスが3,260万円,時間ロスが815万円で,日8,200台のロスに軽減されるという計算になります。そこで,鉄道高架化の道路交通の効果をその差だとして、年間ロスが90億3,400万円減少して,1日ロスが3,620万円,時間ロスが900万円になり,それだけロスが減ることが利益と言うことです。4)これではよく分からない交通量の予測
時間ロスを,時給1,000円の運転者の数に計算すると、高架化事業をしない場合は,時間交通量が1万7,400台の損失が発生し,高架化事業をした場合の時間交通量の8,200台の損失に減少する
から、鉄道高架化事業の時間便益は,1万7,400台マイナス8,200台の、9、200台が渋滞を免れる利益,それが年間90億3,400万円だと言うことです。高架化事業をしないで,放っておくと,時間交通量が1万7,400台になると言うのは,あまりに過剰見積もりだと言う感じがします。沼津駅周辺の南北交通量はせいぜい,日3万台足らず,時間交通量は4,000台程度でしょうから,2030年に時間交通量が4倍も増える計算になってしまいます。この試算はあくまでも、一定の想定をおいているものですから,誤りがあろうと思います。どのような計算で90億3,400万円の時間便益が計算されるのか、詳細な数値を示してもらいたいのです。
⑤13個所の「踏切り」除去の効果
1)自動車の通行しない「踏切り」
踏切りが13個所なくなるという効果ですが,確かに現在この鉄道高架化事業の区間に13個所の踏切が存在しています。しかし,その踏切りは,農道や小さな市道,私道だろうと思われますし,大部分は、自動車交通にほとんど役立っていないようです。これらの踏切を連続立体事業の効果に参入するのも,いささか,過大評価ではないでしょうか。本来,連続立体交差事業が対象にする踏切りは,自動車交通量が大きく,渋滞が大きなロスを生んでいます。
2)東京の環状7号線の例
例えば東京の環状7号線とかいう道路と線路の踏切りのはずです。連続立体交差事業の採択基準では,踏切は交通渋滞が激しく,踏切事故が多発する道路を対象にしているもので,自動車の通らない農道や私道が対象ではないでしょう。踏切りの13箇所を効果に入れるのは,言い過ぎだと言う感じがします。
⑥18.7ヘクタールの新規の土地は使えるのか
1)土地余り時代の土地開発
14ヘクタールの土地と4.7ヘクタールの高架下の土地は何に使えるでしょうか。鉄道高架化事業の大きな効果として新しい土地が生み出され,都市開発に使われることが上げられています。高架化事業によって,14ヘクタールの土地が生まれ,4.7ヘクタールの高架下の土地が生まれて,商業施設や事務所などに利用されることによる効果を上げています。基本計画では,ここに高度都市機能,国際会議場やコンベンション施設が設置されるなどの夢を描いています。どう使うのか市民の希望を集めていると聞いていますが,人口減少,低成長下で今以上に土地の需要が増えることは考えられず,ここに,高度の都市機能が集積することなど考えられません。
2)専門組織に見放された拠点開発事業
高架下の土地すら,協定では沼津市には15%,0.7ヘクタールしか手に入らないことになっています。東部拠点開発事業の施行する立場の再生機構は,この事業に開発効果が乏しく,地価も上がらず,事業の採算性がなく,施工のコストがまかなえない事業だからと,事業から手を引く動きになっており,その責任は,沼津市に移って,沼津市が施主になって,施工せざるを得ない事態になりそうです。
3)「飲み屋」か,あるいは「駐車場」にしか使えない高架下商業機能が集積している新橋,有楽町の高架下すら,駐車施設や飲み屋さんに使われているだけです。沼津駅周辺の高架下の狭い土地の利用可能性なども疑問ですし,将来の需要が増えない時で高架下に,土地利用を広げることは,それだけ他の本町,大手町の中心市街地の土地利用の可能性が減ってしまうことになりかねないと思います。どう使われるか方針も明確ではなく,費用対効果もはっきりしない土地利用に幻想を持つことなど危険ではないかと思います。
Q.2何のための鉄道高架化事業か、そして何の役に立つのか?
A2
①沼津駅周辺整備事業の効果
1)次の三つである
沼津駅周辺総合整備事業の効果は,次の三つと説明されています。
(i)南北交通が円滑化する。(踏切りを13箇所なくし、19箇所の道路を新設拡幅する)
(ii)都心に新たな土地を創出する。(鉄道のスリム化と郊外移転で14ヘクタール,高架下利用で4.7ヘクタール,あわせて18.7ヘクタールの土地)
(iii)沼津駅と駅前広場を一新する。(南北広場を結ぶ幅25メートルの自由通路ができる)
2)いくら得するのかが肝心
この事業によって,駅周辺に,「人々で賑わう町」,「歩いて楽しい町」,「環境のいい町」,「災害に強い町」が生まれるということです。やや抽象的な説明であり,本質的なことは説明されているとは言い難いのです。問題は,その効果が,金銭的にどのくらいの額になるのか,その効果を生むためにコストがどのくらいかかっているのか,どのくらいの時間が必要かなどの説明が必要なのです。同じ効果をつくるに,もっと安く,早くできる方法がないのか,などもっと広い検討が必要です。コストと便益の計量的な分析が示されなければなりません。
②「費用対効果」って何か一費用便益比B/C=2.7一
鉄道高架化事業にいくら費用,つまりコストがかかり,その事業によってどのくらいの利益があるのか。その比率を「費用対効果」といいますが,大規模な公共事業では必要不可欠な数値であり,この事業については,沼津駅付近鉄道高架化事業(路線名沼津南一色線)の「費用対効果分析」が示されています。市役所や県庁は,あまり説明したくないのか,B/C=2.7と言う結果だけ示して,計算根拠などの中身を公表していないようです。分かりにくい話ですが,大切なことなのでもっと分かりやすく,説明してみましょう。
1)結論より,計算過程が肝心
費用対効果は,平成11年に建設省都市局が作成した「連続立体交差事業の費用便益分析マニュアル(案)」によって計算されており,それによると,「総便益B」は,高架化事業を施行しなかった場合に発生する費用から高架化事業を施行した場合の発生する費用を差し引いた額に,踏切り除去に伴う費用を加えた額だとし,その額は,年間,時間便益(走行時間の短縮を金銭評価したもの)が90.34億円,走行便益(走行円滑化による燃費向上による便益の金銭評価)が3.29億円,それに交通事故減少便益が0.39億円で,総額年間94.02億円の便益があると計算されるということです。踏切り除去の便益は,6.02億円と計算されています。
2)「総便益(B)」の計算
総便益は,完成後40年間の便益を合算して価格時点の平成31年に年率4%で原価に還元した結果が,総額で1,946.57億円であり,加えて踏切り除去の便益が124.69億円,合わせて2,071.26億円の便益があると計算されるということです。
③費用対効果で何が分かるのか
1)「総費用(C)」の計算
一方,「総費用(C)」は,平成15年,2003年を基準年次とし,建設費用774.66億円(連続立体事業費787億円マイナス鉄道事業者負担32億円プラス街路事業費用376.8億円)プラス維持管理費(完成後40年間の維持管理費)マイナス用地残存価格21.27億円で754.7億円と計算されています。従って,総費用便益比,B/C(総便益/総費用)は,2,071.26億円/754.7億円ですから,2.74になるということになります。
2)数値が公表されない費用対効果分析
「便益と費用」の基準年次が,前者が,平成31年で後者が平成15年で何故16年の差があるのか,よく分かりませんが,両者の基準年次を平成31年,(2020年)にそろえれば,金利を加えて,その費用は1.9倍の1,434億円になるはずです。これだけでも,B/Cつまり,「総便益/総費用」は,1.44に低下します。最大の問題は,便益の計算の基礎になる鉄道を挟んで南北間の現在の自動車交通量,将来の自動車交通量がどのくらいなのか,遮断交通による損失時間がどのくらいなのか,時間単価がいくらなのかなど肝心な「費用対効果分析」の基礎の数値が明確にされていないことです。それには,2030年の沼津市,その周辺地域の経済社会,土地利用,交通量などの数値が示されなければならないからですし,確かにその数値を予測することは大変困難です。