Q2
全体の費用はいくらかかるのか?一「補助金頼み」の危うさはないのか一
A2
①約20万都市で2,000億円の事業
この「六つの事業」の合計で,事業費は1,823億円(当初2,000億円の推定)とされており,うち沼津市の負担625億円であり,36%の負担,3分の1を負担するだけで,1,823億円の事業ができると説明されています。事業の中心は,沼津駅周辺鉄道高架化事業であり,事業費は1,032億円,全体の59%を占め,沼津市の負担は388億円で全体の38%の負担することになっています。問題は,やはりこの鉄道高架化事業の是非にあります。
②「補助金頼み」の危うさがある
各事業費は,現在の想定であり,事業費は実際の工事では,東海地震対策もあるでしょうし,不確定な要素があることから,増額されるのは避けられず,また,国等の補助金も現在の制度で計算されたもので,市の希望通り補助されればという前提の数字であって、確定されたものではありません。時間がかかれば,負債の返済にも支障が出るでしょうし,金利負担も増えてきます。
③今の国,地方の財政状況で果して大丈夫なのか?
また、完成の時期、施行の期間は,工事が円滑に実施されて,希望通り補助金が支出されたらという前提であり,今の財政状況では,かなりの変更があると思われます。補助金が半分になれば,事業期間は40年と,2倍になってしまうのです。鉄道を通しながらの工事ですから,予想以上に時間がかかるかもしれません。現在の計画でも,関連事業では,2007年,市街地再開発事業がすでに完成したことになっており,鉄道高架化事業を除く関連事業は,平成24年(2012年度),6年後に完成し,鉄道高架化事業はそれから8年後まで続くことになります。事業費,補助金,完成時期も,あくまでも沼津市の希望の数字であり,経済社会情勢が激変する中で,担保されているものではないことを考えなければなりません。
第4章「沼津の都市計画、沼津駅周辺鉄道高架化事業の意義と問題点」
Q1
沼津駅周辺鉄道高架化事業ってどんな事業か?
A1
〔下記の六つの事業〕
沼津駅周辺の都市整備事業の全体を示したもので,人が輝く躍動の街づくりを進める事業の「六つの事業」の集約したもので,最近では「沼津駅周辺総合整備事業(鉄道高架事業等)」と称しており,互いに関連する事業ですが,財源や仕組みなど制度では独立した事業です。分かりにくいのか,最近では,「鉄道高架化事業等」といわずに,「沼津駅周辺総合整備事業」と呼んでいるようです。その中心が東海道線御殿場線の鉄道の高架化事業,連続立体交差事業で,費用は,六つの全体事業で,ほぼ2,000億円(価格修正で1,823億円)になり,うち沼津市の負担が625億円で,事業の完成には,20年の時間が必要な事業だとされております。「六つの事業」の内訳は,次の通りです。
①一その1一沼津駅周辺鉄道高架化事業
1)事業費823億円(沼津市負担193億円)
これが中心の事業で,事業費は823億円で,うち沼津市の負担193億円であり,正式には,「連続鉄道立体交差事業」といいます。
施行者は静岡県,その根拠は,建設省と運輸省の協定(建運協定,連立要綱)に基づくもので,事業費の95%を道路側,静岡県および沼津市が負担する仕組みです。実際の仕事,工事は,JRが受託して行います。道路の負担の2分の1を国が補助し,2分の1を静岡県と沼津市が負担し,完成予定は,運行中の線路を移設し,
高架化するのですから,仮線を作るなどの時間が必要であり,平成32年(2020年)とされています。
2)交通渋滞の解消と南北分断の解決
東海道線鉄道延長15キロ,高架化区間は3.7キロ,御殿場線延長2.4キロ,高架化区間は1.6キロ,合計鉄道延長17.4キロ,高架化区間5.3キロであり,沼津駅の東西に高さ10数メートルの高架建造物が立ち上がります。この区間の鉄道線路が高架化されると,交通渋滞が解消され,南北分断が解決され,自由,円滑に人,モノの移動の確保できます。国道,県道,市道8路線が整備されて,4車線の道路に拡幅されます。13箇所の踏切りが除去されて,鉄道跡地に14ヘクタール,鉄道高架下に4.7ヘクタールの土地が確保できるとされています。
3)JRはこの事業に消極的である
そもそも,鉄道高架化事業は,輸送力を増強するJRのための事業ではなく,沼津市の都市計画にとって鉄道が障害になっていることから,それを取り除くと言う事業であり,鉄道側に何のメリットもある事業ではありません。したがって,JRは消極的であり,それを解消するために全面的に都市,道路サイドが身銭を切ってでも,支えると言う姿勢をとらざるを得ないのです。
②一その2一新貨物駅,新車両基地の整備
1)JRへの補償措置
沼津市の負担で既設の貨物施設の移設と車両基地の整備が進められます。原地区での事業で,その費用は沼津市が負担し,用地買収も沼津市の仕事です。鉄道高架化事業の補償措置としての対策であり,事業には都市側,道路が全面的に責任を持つと言うことになります。
新貨物駅(面積11.8ヘクタール)事業費は101億円そのうち沼津市の負担は79億円で完成予定は平成21年度(2009年度)と計画されています。1日5本の貨物列車が止まり,荷物の積み下ろしが行われ,1日50台の運送トラックが出入りします。
新車両基地(面積5.9ヘクタール)事業費は108億円そのうち沼津市の負担107億円であり,完成予定は平成23年度(2011年)と計画されています。
二つを合わせた合計235億円のうち,沼津市の負担は195億円であり,全体の83%を負担します。完成した施設の所有権,管理権は,JRのものになります。
2)JRだけが得をする鉄道高架化事業
鉄道高架化事業の,全体事業費は1,032億円でうち,沼津市の負担は,388億円で38%を負担するわけです。鉄道高架化事業は,JR会社にとっては,大変魅力のある仕事でしょう。費用の大部分を地元の沼津市民が負担してくれ,自分は,ほとんど,費用を負担しないで1,000億円を超える事業を,20年かけて施工することができます。JRになって新規の土木建築の仕事がなくなった状況で,この事業で20年間土木や建築の職員の仕事を続けることができます。
新設拡幅された鉄道施設はすべてJRの所有物,管理物に成ります。将来,輸送事情が変わって,使われなくなったとしても,自由に処分できるでしょう。民間会社になったJRとしては,自分の利益に成ることを考えるのは当然でしょうが,沼津市民としては,釈然としないのではないでしょうか。
③一その3一沼津駅南土地区画整理事業
駅南側の土地区画整理法による宅地,市街地の整備事業で,施
行面積12.5ヘクタール,施行者は沼津市で,事業費は163億円,うち沼津市の負担は75億円と46%を負担します。完成予定は平成24年度(2012年)とされており,ここに駅前広場,道路などの公共施設が整備され,文化や芸術,教育施設が整備されるとされています。
④一その4一静岡県東部拠点特定再開発事業
駅北側旧国鉄用地を中心にした土地区画整理事業で施行面積27.4ヘクタール,施行者は独立行政法人の「都市再生機構」が担当します。最近の情報では,事業の採算性のなさから都市再生機構は,事業から撤退してしまい,沼津市が事業主体にならざるを得ないようです。事業費195億円でうち沼津市の負担は54億円(関連道路の負担など)とされています。完成予定は平成23年度(2011年度)でここに,事務所,商業施設,文化施設など,さまざまな高度都市施設の整備されることが予定されています。専門の再生機構が手を引いてしまった事業に素人の沼津市が開発のリスクを取れるのでしょうか。
⑤一その5一大手町地区再開発事業
市街地再開発法による駅前市街地の再開発事業で,施行面積1.9ヘクタールに20階建てのマンション(104戸),450台分の駐車場など商業施設のビルが建設されます。施行者は沼津市で事業費128億円,うち,沼津市が負担29億円と23%を負担するとされています。何故マンションのような民間事業に沼津市が資金を出すのかと批判がありますが,既に工事は竹中工務店に発注されており,完成予定平成19年度(2007年度)とされています。
⑥一その6一関連道路整備事業
国道,県道,市道などの関連する道路の拡幅整備事業が進められます。4路線,三つ目ガード,中央ガードなどが4車線になります。鉄道線路の下だけが4車線なりますが,それから先の道路がどうなるかは,よく分かりません。都市計画法,道路法による事業で施行者は沼津市,事業費は142億円うち沼津市の負担は79億円,56%になります。完成予定平成17年度(2005年度)と計画されています。
加えて,駅北には民間施設,キララメッセ,シネマコンプレックスの整備等の民間投資を予定しています。「六つの事業」については,沼津駅周辺総合整備事業として一括して定義されていますが,鉄道高架化事業には連動しない事業もあり,それぞれの必要性,妥当性は,鉄道高架化事業の是非とは別に検討しなければなりません。それぞれが,鉄道高架化事業の計画と一体になって,沼津駅周辺総合整備事業として位置づけられているわけです。
Q42030年の沼津市の姿はどうなるか?
A4
①想像もできない20年後の姿
1)沼津の地名も存続するのか?
そもそも,鉄道高架化事業の完成には,都合よく見積もっても20年かかるということですから,2030年,鉄道高架化が完成する時だという将来の沼津市と東部地区の姿がどうなっているかを考えて、都市づくりを考えなければならないでしょう。その時に,沼津市という地名がはたして存続しているかどうかですら疑問です。
2)沼津市の人口は20年以前から減少に転じる
2005年は、日本の人口の転換点,歴史的に増加を続けてきた日本の人口が始めて減少に転じた時です。日本全体では,人口減少,少子高齢化社会は避けられないでしょう。東部地域全体では2000年時点でも人口は微増ですが,楽観はできません。沼津市は20年以前の1985年から減少に転じているのです。
3)今後の20年間の動向をよく見据えよう
2005年の国勢調査では,2000年に比べて,人口が減少した都市は750市の内452市、7割の都市で人口が減少しているようです。
沼津市の人口も,都市計画では,横ばいから,やや増加するという前提になっていますが,それは現実的ではありません。人口が減少する21世紀では,人口が急激に増加し,周辺へ分散していった過去の都市像も大きく変わるでしょう。沼津市でも,郊外から都心への人口回帰も起こり,人々は再び都心に居住し,逆に郊外市街地が縮小し、土地利用はコンパクトシティーの方向に向かいます。当然なことに、交通量にも変化があり,東駿河湾道路が完成した後には、沼津市の南北の道路交通は激減するに違いありません。南北交通がどうなるのか,しっかり見据えておく必要があります。
②将来の日本の姿一人口減少、少子高齢化社会の町ー
1)現実化してきた日本の人口の減少
まず,日本全体の将来の姿を見ましょう。「2030年の日本」と政府が想定している2030年の日本の姿は,少子高齢化が進んで人口は減少し・2005年のピークの1億2,800万人が1億2,100万人と700万人・マイナス5・5%の減少だと想定されています。65歳以上の高齢者人口が人口比で20%から30%に増え,生産年齢人口(15歳から64歳まで)は,8,450万人から7,260万人と1,190万人,人口比は66%から60%にまで減ります。100人中60人の大人が働き,30人の高齢者と10人の子供を養うという社会像になります。
2)経済の低迷はなお続く
経済のGDPは、働く人口の減少により鈍化が進みますが,やや楽観的に見て、生産性の向上に期待して,1%程度の成長が維持できるとして、現在の500兆円から1.22倍の610兆円,国民所得は年率1・7%で増加するとして,1.41倍の535兆円,勤労世帯の標準的な年収は,560万円から850万円と1.5倍,年率1.51%程度の成長があると想定されているようです。かなり楽観的だと思いますが、10年で3倍にも所得が増えた高度経済成長期とは大違いなのです。
3)消費税の引き上げはやはり必至になる
今,年金,医療,福祉などの社会保障費は,88.5兆円で国民所得の23.5%を占めていますが,これが高齢者層の増加もあって,1.72倍の152兆円に,国民所得の28.5%にまで増えるようです。
会社員が払う保険料が年率12%から15.9%に増加して,税金で負担する扶養コストの増加分を消費税で支払うと,消費税の税率は,今の5%が14%に引き上げざるを得ないという計算になってきます。
4)悲劇的な国,地方の公共機関の借金
国の債務は840兆円で,地方の債務を加えると公共機関の借金は1,000兆円を超えています。金利が上がれば,3%でも年間30兆円,1,000兆円を50年で返すならば,年間20兆円の返済,合わせて年間50兆円もの債務が生まれることになります。まさに悲劇的な財政赤字で,歳出の削減は避けられず,特に公共事業には厳しい削減の道が待っているでしょう。緊急性がなく,投資効果が薄い事業の採択は難しくなるでしょうし,「沼津駅周辺総合整備事業」もその先行きにはやはり楽観はできません。
③衰退必至の地方都市,そして元気のない田舎町の沼津
1)人口が1割,2割減るのは覚悟
沼津市の人口は,2005年戸田村の合併を入れても21万人足らず,すでに減少の過程にある人口減少を食い止めることは難しいでしょう。2025年に全国地方都市の平均の10%の減少があるとしたら,2025年の沼津市の人口は18万人足らず,当然ながら経済も,市の財政も,土地利用も,交通量も人口減少,経済の停滞の中で減少していくでしょう。沼津駅を南北する自動車交通量も減少し,交通混雑も緩和されかもしれません。このことは,鉄道高架化事業の成否を左右するものですし,投資効果を決める要素になります。
2)やれない沼津モンロー主義の都市計画
東部地区が一体になった広域都市圏が形成されて,新しい広域都市が誕生すれば,都市計画も土地利用も,広域的な視点から作られることでしょうし,沼津駅周辺が中心性を維持することができるのか,交通の中心であり続けられるのかも考えて見なければならないでしょう。人口約20万人の広域都市にとって,沼津駅周辺だけの鉄道高架化にどのくらいの価値があるかです。沼津だけのことを考えたいわゆる沼津モンロー主義的な都市づくりは,もう,やれないはずです。
(沼津市の財政問題,鉄道高架化事業を進めた場合に生じる市民の利益と負担がどうなるのかは,後で説明しましょう。)
沼津市の今とそして,未来はどうなるのか?
A3
①人口の推移は「増加」から「減少」へ
1)沼津市だけがなぜ人口が減少するのか
1955年(昭和30年)から2000年(平成12年)まで45年間,沼津市の人口は,14.6万人から20.8万人と1.42倍に増加していますが,ピークは1985年(昭和60年)の21.2万人であったものが,以降減少し,2000年(平成12年)には,20.8万人と0.98倍,2%の人口を落としています。同じ東部地域でも,三島市は45年間で5.8万人から11.1万人と1.9倍に,清水町は1万人から3.2万人と3.2倍に,長泉町は1.3万人から3.6万人と2.8倍にと,沼津市を大きく上回っています。1985年以降も,沼津市の減少に対して,三島市は1.12倍,清水町は1.19倍,長泉町は1.09倍と増加を続けています。2市2町の東部地域全体では,1985年の37.1万人から2000年38.7万人と15年間に1.05倍に増加しており,この間,沼津:市で減少した人口を1市2町で吸収していたことを示しています。明らかに東部地域での広域化が進んでいるが,地域全体が衰退しているわけではありません。
2)転出者過多の沼津市の人口
沼津市の人口動態をよく見ると,1975年頃から転入人口と転出人口では,転出人口が1.1万人台,転入人口が1万人台で社会増減では年間1,000人以上のマイナスでした。しかし,出生数が3,000人台に対して死亡者数が1,000人台で,自然増が2,000人前後となり,自然増で社会減を十分に補うことができたのです。しかし,1980年代になると,年々出生者数は減り始め,逆に死亡者数が増加してきたため,人口の自然増も,当然年々減少して,ほぼゼロ,転出者が転入者より多い社会減を補うことができなくなってきました。2000年代になると,さらにその傾向が強まってきたのです。沼津市の人口減少は,今に始まったわけではなく,地域の広域化という歴史的経緯があります。人口減を食い止めるには,沼津市の社会構造を変えて,住みやすい都市をつくるなどして,若者が周辺地域に転出する社会減を少なくするしかありません。
②産業経済活動の停滞一大工場の撤退で産業都市,
工業都市のイメージが薄れる一
1)企業も退出する
産業経済活動で見ると,工業生産では,昔,大工場地帯であった駅北から藤倉電線,明電社など大工場の撤退が相次ぎ,1998年には全事業所数が1,574箇所であったものが,2003年には1,245箇所と0.79倍に減少し,従業員数では25,199人から,21,389人と0.85倍に,工業出荷額では7,000億円から5,800億円と0.83倍にまで大幅に減少しています。沼津の持っていた産業都市,工業都市のイメージはすっかり薄れてしまいました。
2)「閉めシャッター街」へ
商業活動では,同じ期間に商店数は4,370店舗から3,301店舗と0.76倍に,従業員数では25,400人から22,488人と0.82倍にまで減少し,このため,商品販売額は,9,816億円から8,096億円と0.82倍にまで,減少しています。商店街は顧客を失い,軒並み店が3「閉めシャッター街」なってしまい,中心市街地の衰退振りを物語っています。
③交通拠点機能の喪失「旅客数も減少一
沼津駅の情勢では,1970年から2000年まで30年間に,旅客数が1,044万人(日2.9万人)から842万人(日2.3万人)と0.8倍に,観光客入り込み客数はこの15年間で411万人(日1.13万人)から345万人(日0.95万人)と0.87倍にまで減少しています。桃中軒の駅弁で栄え,お召し列車さえ停車した1等駅の沼津駅の栄光は過去のものになっているのです。新幹線からは見放され,高速道路でも,沼津インターの通過台数は,年間1,070万台,日2.9万台になりますが,東駿河湾道路の開通によってさらに,伊豆方面への交通は,沼津市を避ける交通になり,市内に流入する交通量も減少するでしよう。交通の中心性を失って,経済活動の衰退につながっているのです。